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セーヌ川はなぜ汚い?100年の歴史と五輪での水質問題を解説

花の都パリの象徴、セーヌ川。

キラキラした美しいイメージがありますが、「実は水が汚い」と聞いて、どうしてなんだろう?と疑問に思っていませんか?

特にパリオリンピックでは、選手が嘔吐したというニュースもあって、深刻な水質問題が世界中で話題になりました。

筆者

一体どのくらい汚れているのか、有名なガンジス川とどっちが汚いのか、気になりますよね。

実は、セーヌ川が抱える問題点には、パリの長い歴史が深く関係しているんです。

この記事では、セーヌ川の汚染の背景から、現在行われている水質改善の方法まで、あなたの「なぜ?」に丁寧にお答えしていきますね。

この記事を読むとわかること
  • セーヌ川が100年以上も汚染されてきた歴史的な背景
  • 汚染の根本原因である「合流式下水道」の仕組み
  • オリンピックで選手を苦しめた水質問題の実際
  • 現在進められている水質改善の取り組みと今後の課題
目次

セーヌ川が汚いのはなぜ?その歴史と原因

セーヌ川が汚いのはなぜ?その歴史と原因
  • 100年以上も続く汚染の歴史
  • 汚染の根本的な問題点は下水道にあった
  • 大腸菌の量はどのくらい?日本の川と比較
  • パリ五輪で表面化した深刻な水質問題
  • ガンジス川と比較してどっちが汚いのか

100年以上も続く汚染の歴史

セーヌ川の汚染は、実は昨日今日に始まった話ではなく、100年以上も前の19世紀にまで遡る、とても根深い問題なんですよ。

19世紀半ばまでのパリでは、なんと下水道さえ整備されていませんでした。そのため、各家庭から出る生活排水や人間の排せつ物といった汚物は、道路の中央にあった溝にそのまま捨てられていたのです。そして、それらの汚物は雨水によってセーヌ川へと流れ込む、という仕組みでした。

当時のパリは「鼻が曲がる都」と呼ばれるほど悪臭がひどく、1832年には汚染された水を介してコレラが大流行し、多くの命が失われる事態となりました。

その後、ナポレオン3世の時代に、オスマン県知事による大規模なパリ改造が行われます。このとき、現在につながる近代的な下水道網が建設されたのですね。これにより街の衛生環境は劇的に改善したのですが、この時に採用された下水道の方式が、皮肉にも現代まで続く汚染の火種となってしまったのです。

汚染の根本的な問題点は下水道にあった

汚染の根本的な問題点は下水道にあった

セーヌ川を汚している最大の原因、それはパリの古い下水道システムにあります。この根本的な問題点こそが「合流式下水道」と呼ばれる仕組みです。

下水道には大きく分けて2つのタイプがあります。

合流式と分流式の違い

一つは、雨水と家庭などから出る汚水(生活排水)を、同じ一本の下水管で集めて処理する「合流式」。もう一つは、雨水と汚水を別々の管で集める「分流式」です。

現在の都市開発では、環境への負荷が少ない分流式が主流です。しかし、パリのように古くから発展してきた大都市では、建設コストが安く、浸水対策と汚水処理を同時に素早く進められる合流式が多く採用されてきました。実は、東京23区でも約8割がこの合流式なんですよ。

なぜ合流式が問題なの?

合流式下水道の最大の弱点は、大雨が降ったときに現れます。

普段は問題なく処理できるのですが、強い雨が降って下水管に流れ込む水の量が処理場の能力を超えてしまうと、処理しきれない汚水が混じった雨水が、なんと未処理のまま川に直接放流されてしまうのです。

これがセーヌ川の水質が雨の日に急激に悪化する直接的な原因です。いくら晴れた日の水質が基準を満たしていても、一度大雨が降れば、生活排水に含まれる大腸菌などが一気に川へ流れ込んでしまいます。

大腸菌の量はどのくらい?日本の川と比較

大腸菌の量はどのくらい?日本の川と比較

では、セーヌ川の水質は具体的にどのくらい悪いのでしょうか。一つの指標となる大腸菌の数で、他の水域と比較してみましょう。

パリオリンピックの際、トライアスロン競技の実施可否を判断する国際的な基準では、大腸菌の数が「水100mlあたり1,000個以下」とされています。

ところが、大会前のセーヌ川では、大雨の後にこの基準を大幅に上回る数値が何度も観測されました。ひどい時には2,000個に達した日もあったと報じられています。

対象大腸菌数(100mlあたり)備考
セーヌ川(大雨後)1,000~2,000個超国際基準を大幅に超過
ワールドトライアスロン基準1,000個以下これを下回る必要がある
日本の水浴場(水質A)100個以下多くの海水浴場がこの基準
日本の水浴場(水質B)400個以下遊泳「可」とされる基準
大阪・道頓堀川(参考)100~700個程度時期によるがセーヌ川より良い場合も

このように表で見てみると、セーヌ川の状況がいかに深刻だったかがよく分かりますね。日本の多くの海水浴場は、はるかに厳しい基準をクリアしています。また、かつて汚い川の代名詞だった大阪の道頓堀川よりも、状況によっては数値が悪化してしまうことがある、という指摘もありました。

もちろん、これは測定方法や時期によって変動しますが、アスリートが泳ぐには非常にリスクの高い環境であったことは間違いありません。

パリ五輪で表面化した深刻な水質問題

前述の通り、セーヌ川には古くからの水質問題がありましたが、その深刻さが世界的に注目されるきっかけとなったのが、2024年のパリオリンピックでした。

パリ市は、五輪開催を「セーヌ川を泳げる川に」という歴史的なプロジェクトの集大成と位置づけていました。1923年に水質汚染で遊泳が禁止されて以来、約100年ぶりに市民や観光客が泳げる川として復活させる壮大な計画だったのです。

しかし、大会が近づくにつれて、現実の厳しさが浮き彫りになります。

特に6月から7月にかけて雨天が続いたことで、セー-ヌ川の水質はなかなか改善しませんでした。連日の水質検査では、大腸菌の数が基準値を超える日が多く、トライアスロン競技の公式練習が何度も中止に追い込まれる事態となったのです。

この状況は、選手たちに大きな不安とストレスを与えました。競技本番の日程さえも、その日の天候と水質検査の結果に左右されるという、前代未聞の状況だったと言えるでしょう。

ガンジス川と比較してどっちが汚いのか

セーヌ川の汚染が話題になると、「聖なる川として知られるインドのガンジス川と比べてどっちが汚いの?」と気になる方もいるかもしれませんね。

これは、一概にどちらが汚いと断定するのが難しい問題です。なぜなら、汚染の「質」が全く異なるからです。

ガンジス川の汚染は、主に未処理の生活排水や産業排水、そして宗教的な儀式に由来するものが複合的に絡み合っています。重金属や化学物質による汚染も深刻で、水質指標の多くが極めて悪い数値を示しています。

一方、セー-ヌ川の主な汚染源は、これまで見てきたように都市の生活排水です。特に問題となるのは、糞便由来の大腸菌や腸球菌といった病原菌。これが、雨によって一気に川へ流れ込むことが最大のリスクとなっています。

単純な見た目の濁りやゴミの量で言えば、ガンジス川の方が汚れているように見えるかもしれません。しかし、衛生的な観点、特に先進国の都市河川で人が泳ぐという基準で見た場合、セーヌ川の大腸菌汚染は非常に深刻なレベルにあると考えられます。

なぜセーヌ川は汚い?五輪での影響と対策

なぜセーヌ川は汚い?五輪での影響と対策
  • オリンピックで選手に相次いだ体調不良
  • 競技後に「10回嘔吐した」との訴えも
  • 巨額予算を投じた水質改善の方法とは
  • 巨大貯水槽を建設しても効果は限定的
  • 102年ぶりの遊泳解禁と今後の課題
  • まとめ:セーヌ川が汚いのはなぜかの結論

オリンピックで選手に相次いだ体調不良

厳しい水質の中、パリオリンピックのトライアスロン競技はなんとか実施されました。しかし、選手たちの身体は正直でした。競技に参加したアスリートの中から、体調不良を訴える声が相次いだのです。

特に、ベルギーの女子選手は競技後に体調を崩し、大腸菌への感染が疑われ病院に搬送される事態となりました。これにより、ベルギーチームは後の混合リレーを棄権せざるを得なくなりました。

ベルギーのオリンピック委員会は、「今後の五輪で教訓にしてほしい」と声明を発表。これは、日々の水質によって競技の実施や練習が左右され、選手が過度な不安にさらされたことへの不満の表明でした。

この他にも、スイスやノルウェーの選手からも、競技後に胃腸系の不調を訴える声が上がったと報じられています。パリ市は水質と体調不良の直接的な因果関係を否定しましたが、世界トップクラスのアスリートたちが次々と不調を訴えた事実は、セーヌ川の水質が競技を行うには厳しい環境であったことを物語っています。

競技後に「10回嘔吐した」との訴えも

選手たちからの悲痛な声は、SNSなどを通じても発信されました。中でも衝撃的だったのが、ある選手による「10回嘔吐した」という告白です。

過酷なレースを終えた直後から激しい吐き気に襲われたという体験談は、セーヌ川で泳ぐことのリスクを生々しく伝え、多くの人々に衝撃を与えました。

トライアスロンは、スイム、バイク、ランの3種目を連続して行う非常に過酷なスポーツです。選手たちは極限の状態で競技に臨んでおり、免疫力が低下していることも考えられます。そのような状況で病原菌を含む可能性のある水を飲み込んでしまえば、体調を崩すリスクは当然高まります。

パリ市や大会組織委員会は、直前の水質検査で基準をクリアしたと主張しましたが、選手たちの身体が示した反応は、その主張に疑問を投げかけるものでした。たとえ一時的に数値が基準内であっても、川の水が常に安全とは限らないという現実を突きつけたのです。

巨額予算を投じた水質改善の方法とは

巨額予算を投じた水質改善の方法とは

もちろん、パリ市も手をこまねいていたわけではありません。オリンピック開催と「泳げるセーヌ川」の実現に向けて、総額14億ユーロ(約2200億円)もの巨額の予算を投じて、大規模な水質改善プロジェクトを進めてきました。

このプロジェクトの柱は、主に以下の2つです。

下水処理能力の強化

既存の下水処理場の能力を大幅に向上させ、より多くの汚水を適切に処理できるようにしました。また、老朽化した下水管の修繕や、住宅や施設からの排水が適切に下水道へ接続されているかのチェックなども行われました。

巨大雨水貯水槽の建設

そして、プロジェクトの目玉となったのが、パリ市内オステルリッツ駅の地下に建設された巨大な雨水貯留槽です。これは、深さ約30メートル、直径約50メートルの巨大なコンクリート製の施設で、オリンピックプール20杯分に相当する約5万立方メートルの水を貯めることができます。

この貯水槽の役割は、大雨が降った際に、処理場に送る前の汚水混じりの雨水を一時的に溜めておくことです。そして、天候が回復し、下水処理場の処理能力に余裕ができてから、溜めた水をポンプで送り出して浄化します。これにより、未処理の水が直接セーヌ川へ流れ込むのを防ごうというわけです。

巨大貯水槽を建設しても効果は限定的

この巨大貯水槽は、まさに水質改善の切り札として期待されていました。実際に5月に稼働を開始し、イダルゴ・パリ市長自らがセーヌ川で泳いで安全性をアピールするパフォーマンスも行われたのです。

しかし、その効果は限定的でした。

オリンピックを目前に控えた6月から7月にかけて、パリは記録的な長雨に見舞われます。断続的に降り続く雨によって、巨大な貯水槽をもってしても、溢れ出る汚水を完全に食い止めることができなかったのです。

この結果、セーヌ川の大腸菌レベルは高いままで推移し、何度もトライアスロンの練習が中止される事態につながりました。

この事実は、合流式下水道という根本的な構造問題の解決がいかに難しいかを物語っています。一つの巨大施設を造るだけでは、都市全体のインフラが抱える課題を完全に克服することはできないのです。パリ市は「天候が回復すれば、太陽の紫外線による殺菌効果で水質は改善する」と楽観的な見通しを示していましたが、自然の力に頼らざるを得ない状況は、計画の脆さを露呈した形となりました。

102年ぶりの遊泳解禁と今後の課題

102年ぶりの遊泳解禁と今後の課題

様々な問題がありながらも、パリオリンピックは閉幕しました。そして、パリ市は当初の計画通り、五輪後にはセーヌ川の一部エリアで一般市民向けの遊泳を解禁する方針を示しています。これは、1923年に禁止されて以来、実に102年ぶりの歴史的な出来事となります。

遊泳が許可されるのは、特に水質が安定していると判断された3つの指定エリアです。もちろん、遊泳が可能な日時は、日々の水質検査や気象条件を厳密にチェックした上で判断されることになります。

この遊泳解禁は、長年にわたる浄化プロジェクトの大きな成果であることは間違いありません。しかし、オリンピックで露呈したように、多くの課題が残されているのも事実です。

最大の課題は、やはり大雨への対策でしょう。ゲリラ豪雨のような予測が難しい異常気象が頻発する現代において、雨が降るたびに遊泳が禁止されるような状況では、本当の意味で「泳げる川」が復活したとは言えません。

根本的な解決策は、下水道を合流式から分流式へ全面的に改修することですが、歴史的な街並みが世界遺産にも登録されているパリ中心部で、大規模な掘削工事を行うのは、費用的にも技術的にもほぼ不可能です。

今後、パリ市はさらに貯水施設を増設するなどの対策を検討していますが、自然の猛威と都市インフラの限界との間で、難しい舵取りが求められることになります。

まとめ:セーヌ川が汚いのはなぜかの結論

この記事では、「セーヌ川が汚いのはなぜか」という疑問について、その歴史的背景からオリンピックで起きた問題、そして今後の課題までを詳しく見てきました。最後に、今回の内容のポイントを振り返ってみましょう。

  • セーヌ川の汚染は19世紀のパリ改造に起源を持つ
  • 当時は生活排水や汚物が直接川に流されていた
  • 汚染の根本原因は雨水と汚水を一緒に流す「合流式下水道」
  • 大雨が降ると未処理下水が川に直接放流される
  • 大腸菌の数値は雨天時に急激に悪化する
  • 日本の多くの水浴場よりも水質基準が悪い状態になることがある
  • 大阪の道頓堀川と比較されるほど汚染が指摘された
  • パリオリンピックではトライアスロン競技で問題が表面化
  • 選手から嘔吐や体調不良の訴えが相次いだ
  • 大会期間中、練習が中止される事態も発生した
  • 対策として約2200億円を投じた水質改善プロジェクトが実施された
  • 巨大な雨水貯水槽が建設されたが効果は限定的だった
  • 1923年以来、約100年間遊泳が禁止されていた
  • 五輪後、一部エリアで遊泳が解禁されたが多くの課題は残る
  • 根本解決には分流式への変更が必要だが現実的ではない
筆者

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